当協議会について

結成宣言

部落問題は、我国の最も重大にして深刻な社会問題であり、人権侵害の社会的現実として存在する。しかし、まだ多くの国民は、この現実を知らないし、また知っていても関わりを持ちたがらない。それらがいまも差別を存続させている。近代日本の歴史は、これまでの思想や学問、教育のなかに差別的な体質をもちつづけてきた。そのなかで部落差別や人権侵害の社会的存在をあきらかにしてきたのは、それへの苦闘をかさねた部落解放運動の歴史的なたたかいであった。それゆえに、部落差別についての正しい認識と解決への意欲なしには、日本文化を理解し、日本人として人間を解放することはできない。

とりわけ、全国水平社の発祥地、奈良県では、戦後いちはやく、長欠不就学児童生徒のきびしい差別の現実に教師たちは直面し、1952年から同和教育への取り組みをはじめた。今日では全国の幼、小、中、高校において、教育権の保障、進路保障および差別を許さない人間形成の教育実践が推進されている。また、1983年には、全国大学同和教育研究協議会が結成されたが、本県においてもようやく本協議会の結成を見るにいたった。奈良県内の大学では、これまでも数多くの差別事件が起こっており、その解決に向けて今後いっそうの研究と教育に対する充実整備への取り組みに努力しなければならない現状にある。それには、これまで大学の体制の中に、むしろ差別を温存助長してきた体質の側面をもっていたことを素直に認めなければならないであろう。

本来、大学が果たす教育や研究の社会的使命と役割には、部落差別の解消という国民的課題に応える義務があり、また、学生に同和教育を正しく位置づけ推進するという課題をもっている。そのためには、一人ひとりの大学教職員が部落差別の解決をみずからの問題ととらえ、これと取り組むことからはじめなければならない。さらには、障害者、民族、性、生活習俗などのあらゆる差別問題の解決に、それぞれの立場から研究と教育の実践にむけていく必要がある。ここでは、当然、各自の専門専攻分野の枠をこえ、社会の現実に目を向けた研究、教育への態度と努力が求められているのである。しかも大学は、学生に対して、人権尊重の精神と差別を許さない人格形成への教育を推進するため、人権問題の研究室や専門科目の設置など条件の整備充実を早急に図ることが迫られている。同時にそれは、差別と人権の学問研究を通して、大学における専門とはなにか、学問とはなにか、大学とはなにか、と問われているのである。

さて、いまや日本は国際人権規約を批准した国となった。それはいかなる国家の国民に対しても、国籍や性別をこえ、一人の『人間』としてとらえ、その人権を保障するものである。したがって、部落差別をはじめ人間に対するさまざまな人権問題をとらえ、その解決に取り組むことは、まさに大学においても国際的課題なのである。

われわれ大学教職員は、研究と教育の推進にたずさわると同時に、また、一個の『人間』として差別解消に取り組む連帯の輪をひろげ、人権尊重の思想・文化・学問などの研究交流や共同研究の場をつくりあげねばならない。さらには、大学はその使命として人権問題研究の条件整備をはかり、国際的視野にたった学生の人格形成への教育に努めなければならない。いま、それは大学の果たすべき役割として緊急にせまられている課題である。

本日の結成総会において、われわれは決意を新たにし、これらの課題にむけて前進することを宣言する。

1986年12月22日
奈良県大学同和教育研究協議会結成総会